<253>答弁書でも繰り返される自己矛盾

証拠があっても認定困難

当会が提起した給与返還等請求住民訴訟(令和8年(行ウ)第3号)について、第一回口頭弁論を前に、令和8年2月13日付で被告である緑川輝男白子町長から答弁書が提出された。
以下、白子町長の答弁書がいかに自己矛盾しているか、以下解説する。

答弁書の概要

被告・白子町長が求める判断は明快である。

「原告(当会)の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

そして、事実経過についての認否はほぼ全面的に認めた上で、唯一「不当利得の成立およびその金額」についてのみ争うという構成をとっている。

すなわち、白子町長は以下の事実をすべて認めている。

これほどの事実を認めながら、なぜ「不当利得は成立しない」と言えるのか。答弁書における被告の主張は、根本的な矛盾を抱えている。

第1 「証拠認定困難」という驚くべき主張

答弁書は、返還請求を取り消した理由の一つとして「ネットの私的閲覧をした期間と時間は、証拠上認定することが困難であった」と述べている。

これは驚くべき主張である。町は自ら以下の証拠を保有・保全している。

  • ITデータ運用管理ソフトによる業務用パソコンの利用状況ログ(アクセス記録)
  • 令和7年1月27日付、企画財政課による「面接結果報告書」
  • 今井氏本人が「1日の3分の1程度は私的利用をしていた」と認めた供述

これだけの客観的証拠が揃い、しかも町自身がその証拠に基づいて少なくとも70%は職務不提供」と認定し、126万円の返還請求を実際に行ったにもかかわらず、後になって「証拠認定が困難だった」と主張するのは、自らの行為を自ら否定することに他ならない。

証拠は消えていない。町の認定も消えていない。それでも「困難だった」と言うなら、では、なぜ当初の返還請求が可能だったのか。答弁書はこの問いに答えていない。

第2 「職務のヒントを得るための検索」という弁解

答弁書は、今井氏が「職務のヒントを得るために検索していたため、私的閲覧と職務上の閲覧を区別することが困難であった」と述べ、これを返還請求取り消しの理由の一つとして位置付けている。

4か月間にわたり勤務時間の70%を占めるネット閲覧が「ヒント探し」だったとする弁解を、白子町長が正面から採用したということである。

しかし、この弁解は、町自身が実施した面接調査の結果と矛盾する。面接において今井氏本人は「1日の3分の1程度は私的利用をしていた」と認めており、IT管理ソフトも私的閲覧の記録を残している。「ヒント探し」と「私的閲覧」の区別が困難というよりも、町は当初からその区別を行った上で返還請求を行ったはずである。

今井氏の弁解をそのまま採用することは、自ら実施した調査結果の否定に等しい。

第3 職場にいれば指揮命令下にあるのか。

答弁書が最も比重を置いているとみられるのが、「労働時間」の解釈に関する法的主張である。

答弁書は東京地裁平成15年1月23日判決を引用しながら、「給与の支給対象となる勤務時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう」とし、今井氏は「職場に留まっており外出等もしていないため、客観的に指揮命令下にないとは断定できない」と主張している。

この論理を適用すると、「職場に座っていれば、何をしていても給与が発生する」という帰結になる。

しかし、これは地方公務員法第35条が定める職務専念義務の存在を完全に無視した議論である。同条は「職員は、法律又は条例に特別の定がある場合を除く外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。」と定めている。職場にいる間であっても、職務に専念していない時間は、給与の法律上の原因を欠く

それ以上に重大な矛盾がある。白子町長自身が、今井氏に対して「停職1か月」という重い懲戒処分を下したという事実である。「職場にいれば指揮命令下にある」という主張が正しいなら、そもそも懲戒処分の根拠となった「職務不提供の事実」とは何だったのか。町は、「問題のない行為」に対して停職処分を科したことになってしまう。

答弁書の主張は、被告自身が行った懲戒処分と正面から矛盾している。

第4 請求の正当性と不当利得不成立は両立不可能

本件における最大の矛盾は、以下の点に集約される。

白子町長は、令和7年4月30日付で今井氏に対して「126万円の不当利得返還を求める」と通知した。この通知は、「今井氏の行為が不当利得に該当する」という法的判断のもとに行われたものである。

その同じ白子町長が、本件訴訟の答弁書において「不当利得の成立については争う」と主張している。

「自分が行った請求は適法・正当であった」と「不当利得は成立しない」は、両立しない。

もし本当に不当利得が成立しないのであれば、当初の返還請求そのものが違法な請求だったことになる。逆に、当初の返還請求が適法であったならば、今日になって「不当利得は成立しない」と主張することはできない。

白子町長は、自分の行為のどちらが誤りであったのかを、明確に説明する責任がある。

第5 今井氏への訴訟告知について

なお、答弁書とともに提出された書類の中に、注目すべきものがある。

被告・白子町長は、元職員である今井恵一氏に対して、地方自治法第242条の2第7項に基づく訴訟告知を行っている。

訴訟告知の内容は以下のとおりである。

「仮に、告知人(被告)が上記事件において敗訴すれば、被告知人今井恵一に対し、上記金員を請求することになる。」

すなわち、白子町長は今井氏に対して、「この訴訟で町が負けた場合、次はあなたに126万円を請求する」と正式に通知したわけである。

住民訴訟制度において、4号訴訟の被告となった自治体には、当該訴訟の結果が不利益をもたらす可能性のある第三者に対し、訴訟告知を行う義務がある。今回の訴訟告知はその義務的手続きであるが、その意味するところは明白である。

今井恵一氏は、この訴訟から無縁ではない。訴訟の結果によっては、今井氏自身が126万円の返還を求められる立場に置かれることが、すでに正式に通知されているのである。

第一回口頭弁論は令和8年2月27日午後3時30分、千葉地方裁判所において開かれる。今井氏にはその訴状・答弁書・証拠書類の写しも送付されており、この訴訟の行方を傍観することは許されない立場にある。

職務に専念すべき時間に何をしていたのか。受け取った給与に法律上の原因があったのか。それらの問いに、今井氏はいずれ、公開の法廷において向き合うことになる。

当会は、第一回口頭弁論以降も、法と証拠に基づき本件の違法性を徹底的に追及していく。

投稿者: 市民オンブズマンの会白子

【会長略歴】千葉県白子町住民。内部監査士。1958年生まれ。前職(商社勤務)時より日系企業の東西経済回廊諸国(タイ国+周辺諸国)進出支援の講演(JETRO他)多数。専門は危機管理(世界銀行、国連・国際防災戦略事務局、JICAでの講演・公的調査、査読論文他)。趣味は散歩。特技は国境陸路越え。東西回廊横断:ベトナム カンボジア タイ ミャンマー バングラデシュ/縦断:中国 ラオス タイ マレーシア シンガポール 。【ニックネーム】❶伊能忠敬 夢酔独言 ❷伊能忠敬 九十九里海岸。

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