
もともと町は126万円を請求していた
千葉地方裁判所は、当会が提起した給与返還等請求住民訴訟において、白子町長に対し、元白子町地域プロジェクトマネージャー・今井惠一氏へ34万3320円及び遅延損害金を請求するよう命じた。
しかし、この判決を「34万円だけ請求すれば終わり」と受け止めるなら、それは大きな誤りである。
なぜなら、白子町はもともと今井氏に対し、34万円ではなく、126万円の返還請求をしていたからである。
本件訴訟の答弁書でも、町は、今井氏に対して停職1か月の懲戒処分をしたこと、令和7年4月30日付で126万円の給与返還請求をしたこと、その後、令和7年11月13日に当該返還請求を取り消したことを認めている。
つまり町は一度、自らの判断で「126万円を返還すべきだ」と認定していたのである。
それにもかかわらず、訴訟では「不当利得の成立及び金額を争う」と主張し、「私的閲覧の具体的な期間や時間を証拠上認定することが困難」などと述べた。
これは明らかに矛盾している。
不当利得が成立しないというのであれば、町が行った126万円の返還請求は何だったのか。逆に、126万円の返還請求が正当だったのであれば、なぜ後になって「証拠上認定困難」と言えるのか。
町は、この矛盾について、町民に説明していない。
「証拠認定困難」は判決で退けられた
町は、返還請求を取り消した理由として、「私的インターネット閲覧をした具体的な期間及び時間を証拠上認定することが困難であった」と説明していた。
しかし、証拠は存在していた。
町は、ITデータ運用管理ソフトによる業務用パソコンの利用記録、スクリーンショット記録、本人聴取結果、そして今井氏本人が「1日の3分の1程度は私的利用をしていた」と認めた供述を保有していた。
さらに判決は、スクリーンショット記録によって確認されただけでも、本件期間中に594件のウェブサイト閲覧があったと認定した。そのほとんど全てが、地域プロジェクトマネージャーとしての企画立案業務と明らかに関係のないものだったとも判断している。
これでなぜ「証拠上認定困難」なのか。
裁判所は、町が「認定困難」とした証拠をもとに、少なくとも勤務時間の30%について今井氏が勤務していなかったと認定し、34万3320円の返還請求権を認めた。
つまり、町の説明は裁判所で通用しなかったのである。
34万円は上限ではなく、最低額である
ここで重要なのは、裁判所が「30%」と認定したのではなく、「少なくとも30%」と認定したことである。
これは、今井氏の職務不提供が30%に限定されるという意味ではない。客観証拠から確実に認定できる最低ラインが30%だった、という意味である。
実際、令和7年1月27日には、勤務時間の70%を私的なインターネット閲覧に費やしていたことも認定されている。
したがって、34万3320円は上限ではない。最低額である。
町が判決後にすべきことは、34万円を請求して終わることではない。もともと126万円を請求した根拠は何だったのか、594件のスクリーンショットやアクセス記録を再精査すれば、34万円を超える返還請求権が認定できるのではないかを検討することこそ、町が果たすべき責任である。
にもかかわらず、町が何の精査もせず、「裁判所が34万円と言ったから34万円だけ請求する」として幕引きを図るなら、それは判決の趣旨を矮小化するものと言わざるを得ない。
裁判所は、「34万円しか請求できない」と言ったのではない。
「少なくとも34万3320円は請求せよ」と命じたのである。
判決後の不作為は、新たな「怠る事実」になり得る
住民監査請求は、違法又は不当な公金支出だけを対象とする制度ではない。地方公共団体の長や職員が、財産の管理を怠っている場合にも、住民は監査を求めることができる。
そして、地方公共団体の財産には債権も含まれる。今井氏に対する給与相当額の返還請求権は、白子町の債権であり、町民全体の財産である。
したがって、町長には、その債権を適切に管理し、必要に応じて回収する責任がある。
今回、過去に問題となったのは、町が126万円の返還請求を取り消したことであった。
しかし、判決後に問題となるのは別である。
裁判所が「少なくとも30%」と認定し、町がスクリーンショット、アクセス記録、本人供述、当初126万円の算定資料を保有しているにもかかわらず、町が34万3320円を超える返還請求権の有無を調査しないとすれば、それは判決後に発生する新たな不作為である。
つまり、町が34万円だけを請求し、それ以上の精査をしない場合、その対応自体が新たな「怠る事実」として住民監査請求の対象になり得る。
問題は、34万円を請求したかどうかではない。
本来回収すべき債権の全体を、町が真剣に精査したかどうかである。
「職務のヒント」論も通用しなかった
町は訴訟で、今井氏が「企画立案業務のヒントを得るために検索していた」と弁解していることを理由に、私的閲覧と職務上の閲覧を区別することが困難だとも主張した。
しかし、判決はこの弁解も採用しなかった。
閲覧されていたウェブサイトのほとんど全てが、地域プロジェクトマネージャーとしての企画立案業務と明らかに関係のないものだったからである。しかも、それらの閲覧結果をもとに、何らかの企画立案をした実績もうかがわれないとされた。
職務のヒントというなら、何を調べ、それがどの業務に結びつき、どの企画に反映されたのかを説明できなければならない。
芸能ニュース、株価情報、スポーツ記事、転職サイト、賃貸物件検索、高校入試問題まで「職務のヒント」とするなら、職務専念義務は空文化する。
裁判所は、そのような弁解を認めなかった。
町が今すべきこと
白子町が今すべきことは明らかである。
34万3320円を請求することは当然である。しかし、それだけで終わってはならない。
町は、当初126万円を請求した根拠を再検証し、スクリーンショット記録、アクセスログ、勤務記録、本人供述を改めて精査すべきである。そして、34万3320円を超える返還請求権が存在するのかを確認し、追加請求すべき金額があるなら、今井氏に対して返還を求めるべきである。
もし町が、判決後に何も精査せず、34万円だけを請求して幕引きを図るのであれば、その対応は、町の債権管理を怠るものとして、改めて住民監査請求の対象となり得る。
町民の税金は、町長のものではない。
町が一度認定した126万円という金額も、裁判所が示した「少なくとも30%」という言葉も、決して軽く扱ってよいものではない。
白子町に問われているのは、34万円を請求するかどうかではない。
町民の血税を本気で守る意思があるのか。
最低額で幕引きを図るのか。
それとも、法と証拠に基づき、本来回収すべき金額を最後まで精査するのか。
判決後の町の対応こそ、次に厳しく問われることになる。