― 監査委員が見誤った不当利得返還請求の本質 ―

白子町地域プロジェクトマネージャーによる業務外ネット閲覧に関する給与返還請求に対して行った住民監査請求について、白子町監査委員から令和7年12月19日付で通知された監査結果は、例に漏れず、法律論として重大かつ明白な誤りを含んでおり、当会として到底容認できるものではありませんでした。
以下、白子町監査委員による監査結果がいかに誤っているのかを解説します。
まず、本件住民監査請求において請求原因(対象)としてる“債権”は、白子町地域プロジェクトマネージャーであった今井 恵一氏が令和6年10月から令和7年2月までの約4ヶ月間、勤務時間の約7割を私的インターネット閲覧に費やしていたという事実に基づいて、「勤務時間中に職務に専念していなかった期間の給与相当額126万円の不当利得」についての返還請求権である。
つまり、監査結果において請求棄却理由の要となっている「停職期間中の給与(155,466円)」は、監査請求当時に支給されていなかったのであるから、そもそも請求対象としていない。
本件請求は、停職処分とは全く別個の期間・法律関係に基づく不当利得の返還請求なのである。
ところが、白子町監査委員は、千葉県市町村公平委員会が停職処分を戒告に変更したことをもって、あたかも126万円の不当利得返還請求権も消滅したかのように判断した。
これらのことから、白子町監査委員は、本件監査請求において最も中核となるべき請求原因を正確に把握しないまま審理を進め、結果として、請求の対象およびその法的根拠を根本から取り違えた状態で監査結果を示したものといわざるを得ない。以下、その誤りの内容について詳述する。

第1 監査結果の根本的誤謬
監査委員は、監査結果において以下のように述べている。
「停職処分が遡及的に否定された結果、無給とする法的根拠が消滅した。その結果、給与支給は適法な支給に転化し不当利得ではなくなるため、給与返還請求を維持する法的根拠は喪失されたと解すべきである。」
この論理には、三重の致命的誤謬がある。
1 公平委員会裁決の射程の誤解
千葉県市町村公平委員会による裁決は、停職処分の量定(処分の重さ)を変更したに過ぎず、職務専念義務違反という非違行為の存否そのものを判断したものではない。公平委員会が否定したのは「停職処分という懲戒処分の選択」であって、「職務専念義務違反という非違行為そのもの」ではない。
つまり、元職員である今井氏が令和6年10月から令和7年2月までの間、勤務時間の約7割を私的閲覧に費やしていた事実、職務専念義務に違反していた事実、その期間町に対して労務を提供していなかった事実は、裁決によって消滅していない。
仮に監査委員の判断が正しいとすれば、懲戒処分が戒告に変更されただけで、あらゆる非違行為が遡及的に消滅することになってしまう。これは明らかに不合理である。懲戒処分は、非違行為に対する制裁の種類と程度を決定するものであり、非違行為の存否そのものを判断したものではない。
2 請求の原因と法的根拠の取り違え
監査委員は、「無給とする法的根拠が消滅した」と述べているが、これは本件請求の請求原因や法的根拠を完全に取り違えた判断である。本件の請求原因は「不当利得返還請求」であり、「停職処分による無給」ではない。
民法第703条は「法律上の原因なく他人の財産…によって利益を受け…た者は…返還する義務を負う」と規定し、民法第704条は「悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。…」と規定する。
元職員である今井氏は、令和6年10月から令和7年2月までの約4ヶ月間、勤務時間の約7割を私的閲覧に費やし、町に対して労務を提供していなかった。労務の提供がない以上、給与支給の対価(法律上の原因)が存在しない。したがって、この期間に支給された給与126万円は「法律上の原因なく」受領された利益であり、不当利得に該当する。この法的根拠は、停職処分の有無とは全く無関係である。
本件請求は「労務不提供期間の不当利得返還請求」であるから、停職処分が変更されても、労務不提供という事実は何ら変わらないのだから、不当利得返還請求の法的根拠は何ら影響を受けない。
3 「適法な支給に転化」という論理の崩壊
監査委員は、「給与支給は適法な支給に転化し不当利得ではなくなる」旨述べている。しかし、労務の提供がない給与支給が、どのようにして「適法な支給」に転化するのか、その論理的根拠は一切示されていない。
給与とは、労働契約に基づく労務提供の対価である。対価なき給与支給は、不当利得以外の何物でもない。仮に監査委員の論理が正しいとすれば、職員が全く勤務しなくても、懲戒処分が軽減されれば、給与は適法に支給されるという不合理な結論が導かれる。
不当利得返還請求と懲戒処分は、法的に独立した別個の制度である。懲戒処分は服務規律違反に対する制裁であり、不当利得返還は法律上の原因なく受領した利益の返還であり、懲戒処分が軽減されたからといって、労務不提供という事実が消滅するわけではない。したがって、不当利得返還義務も消滅しない。

第2 債権放棄の違法性
町が令和7年11月13日付で126万円の返還債権を放棄したことは、さらに重大な問題がある。この債権放棄には、地方自治法が定める議会の議決が一切経られていない。
地方自治法第96条第1項第10号は、「普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。(10)法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合を除くほか、権利を放棄すること」と定めている。
債権(不当利得返還請求権)の放棄は、まさに「権利を放棄すること」に該当する。
本件において、町は議会への議案提出も、議会の審議・議決も、条例制定も一切経ずに債権を放棄した。これは地方自治法第96条第1項第10号に明白に違反しており、当該債権放棄は無効である。
したがって、126万円の不当利得返還請求権は、依然として存在している。

第3 住民訴訟制度の趣旨からの批判
本件の経緯を見ると、白子町総務課の行動に極めて不自然な点がある。
令和7年5月から何らの債権回収措置を行わなかった町が、当会による10月22日付の住民監査請求後、監査結果が出される前である令和7年11月13日付で慌てて今井 恵一氏に対する債権放棄を行った。
これは、監査対象となっている債権を監査結果が出る前に事前に放棄し、債権そのものをなくすことで監査結果を棄却に持ち込もうとしたと考えざるを得ない。
このような債権放棄行為について、地方制度調査会答申(平成21年6月16日)は、以下のように明確に警告している。
「近年、議会が、4号訴訟の係属中に当該訴訟で紛争の対象となっている損害賠償請求権を放棄する議決を行い、そのことが訴訟の結果に影響を与えることとなった事例がいくつか見られるようになっている。4号訴訟で紛争の対象となっている損害賠償又は不当利得返還の請求権を当該訴訟の係属中に放棄することは、住民に対し裁判所への出訴を認めた住民訴訟制度の趣旨を損なうこととなりかねない。このため、4号訴訟の係属中は、当該訴訟で紛争の対象となっている損害賠償又は不当利得返還の請求権の放棄を制限するような措置を講ずるべきである。」
本件はまさに、この答申が警告する典型的な事例である。住民監査請求という住民訴訟制度の入口段階で、執行機関が債権を放棄することによって住民の権利行使を封じようとする行為は、住民訴訟制度の趣旨を根本から損なうものである。
しかも本件では、議会の議決すら経ずに緑川輝男町長が違法に独断で債権を放棄している。これは、地方制度調査会答申が問題視した事例よりも、さらに悪質な行為といえる。

第4 神戸市判例の教訓
神戸市の外郭団体補助金事件では、住民訴訟で認められた損害賠償請求権を市議会が放棄する議決を行った。最高裁平成24年4月20日判決は、議会による権利放棄議決の適法性を判断する際、諸般の事情を総合考慮して議会の裁量権の逸脱・濫用がないかを審査すべきとした。
神戸市事件では「議会の議決内容の適法性」が争点となったが、本件は議会議決そのものすら存在しない。地方自治法96条1項10号は権利放棄を議会の議決事項と定めており、議会を経ずに町長が126万円の債権を放棄したことは、最高裁基準による審査以前の法定要件の欠缺であり、民主的統制を潜脱する重大な違法行為である。

第5 債権管理義務違反
地方自治法第240条は、「普通地方公共団体の長は、債権について、政令の定めるところにより、その督促、強制執行その他その保全及び取立てに関し必要な措置をとらなければならない」と定めている。
本件において、町は令和7年5月31日の支払期限経過後、督促状も発せず、債権回収のための法的措置を一切講じこなかった。そして当会から監査請求を受けるや否や、議会に諮ることもせず、慌てて債権を独断で放棄した。これらは、地方自治法第240条が定める債権管理義務や議会の議決を求める地方自治法第96条第1項第10号に明白に違反している。

第6 住民訴訟の提起へ
以上のように、白子町監査委員による誤った監査結果を放置することは、住民監査制度が本来果たすべき機能を空洞化させ、その趣旨を没却することにほかならない。
住民の血税が、株価情報の確認や転職活動に興じるなどして職務に専念しなかった職員の手に給与として渡ることは、断じて許されない。
振り返れば、令和3年7月にも当会が白子町を相手に住民訴訟を提起し、町は敗訴的和解に追い込まれた。にもかかわらず、また白子町は何ら反省することなく、監査請求を逃れるためだけの違法な債権放棄という最悪の対応により、本来返還されるべき血税を手放し町に損害を与えた。
さらに、これらの違法行為を監査すべき白子町監査委員は、停職処分と不当利得返還請求という別個の法制度を混同し、「適法な支給に転化」などという根拠のない造語を用いて債権放棄を容認し、また、議会議決を経ない債権放棄という明白な地方自治法違反を看過するなど、法的論理を欠いた意味不明な言い訳に終始している。
地方自治法が監査委員制度を設けた趣旨は、執行機関の財務会計行為を独立した立場から審査し、違法・不当な行為を是正することにある。しかし、法的な識見を持たない町の監査委員は、能力的にその職務を完遂できない状態に陥っている。
このような状況下では、現在の監査委員らに白子町の監査を任せることはできない。本来であれば、町は法的な識見を持つ監査委員を選任すべきであるが、法的識見を持つ監査委員を選任すると、様々な問題が明らかになってしまうため、町は適切な人材を選任できないというジレンマに陥っているものと考えられる。
前回の住民訴訟から何も学ばず、自浄作用を完全に失った白子町の現状は、極めて深刻である。町の違法行為を容認し、法的論理を理解できない監査委員が存在する限り、白子町の行政の適正化は望めない。
今回の町の対応を見る限り、地方公共団体に求められる最低限のコンプライアンスすら全く守られていないことがみてとれる。
もはや行政内部による是正が期待できないことから、当会は本件について住民訴訟を提起し、司法の場において本件の違法性を徹底的に追及していくこととした。
具体的には、今井 恵一氏の職務専念義務違反を事実上容認した監査委員の判断をはじめ、議会の議決を欠く債権放棄の有効性や126万円の不当利得返還請求権の存否について、公開の法廷において、法と証拠に基づき徹底的に立証・検証していく。
令和8年も当会は、白子町の地方自治を健全化と、法の支配と民主的統制を回復するため、住民訴訟を通じた闘いを継続する決意である。
令和8年1月2日
市民オンブズマンの会白子 会長