・請求権等の有無及びその額の算定方法
・和解調書
・和解書
・弁護士費用請求書
問題発覚と住民監査請求までの経緯
2021年12月、白子町議会において町職員による役場庁舎への自動販売機無償設置の問題が初めて表面化した。当時、白子町議会議員であった東海林氏がこの問題を指摘したが、町議会は問題を正すどころか、十分な事実確認をせず個人情報を暴露したなどの理由で翌2022年3月にその議員への問責決議を可決した。この異例の対応により、問題提起した議員は不当にも非難され、一時は問題そのものが覆い隠されてしまった。
しかしその後、当会が議会議事録の改ざんや個人情報の黒塗りに対し白子町情報公開・個人情報保護審査会へ審査請求を行い、審査会から職員の個人名は個人情報に当たらないとの判断が示され、そのすべてが開示されることとなった。これにより、議会の問責決議の根拠は崩れることとなった。
議会による対応は明らかに行き過ぎであり、この問題は町民による監視と是正を求める動きへと発展していった。私たち市民オンブズマンの会白子は、問題を正式に正すため、住民監査請求に踏み切った。まず役場庁舎や関連施設における自販機無償設置による財産管理の怠慢について、町の監査委員に是正を求めたのである。
監査請求では、無償設置が続いていた約40年分の未収使用料や電気代相当額(推計約585万円)の返還を町が関係者に請求することを求めた。ところが、2023年2月に白子町監査委員から通知された結果は、識見監査委員は請求に理由があるとしたものの、議選監査委員である今関勝巳氏の誤った法解釈により監査委員間の合議が整わず、合議不調となり当会の請求は認められなかった。
議会議員でもある今関勝巳氏は、この長年の慣行について問題なしとの判断を示した形で、町自らは是正措置を講じることはなかった。この対応に対し、当会は直ちに次の手段に移った。
住民訴訟の提起と裁判所での争点
監査請求が棄却されたことを受け、当会は地方自治法に基づき住民訴訟を提起した。令和4年7月8日付で千葉地方裁判所に提訴された本件訴訟では、原告である当会が被告白子町長(石井和芳氏)を相手取り、町が適切な財産管理を怠っている事実の是正を求めた。
具体的には、町が長年放置していた自販機無償設置による不当利得について、当該自販機の設置・運営者である職員(補助参加人小高氏)に未払い使用料相当額と遅延損害金を請求するよう町長に求め、併せてこの事態を許してきた前町長(補助参加人林氏)に対する損害賠償責任も追及した。
訴訟の争点となったのは、「町職員およびその父親(故人)が許可なく長期間公有財産を私的に利用し収益を得ていたこと」「歴代町長(特に林氏)がその状況を放置し、公有財産の適正管理義務を怠ったこと」の是非であった。原告側は、昭和55年の契約締結以降一度も使用料を徴収せず放置してきた町の対応は財産管理の怠慢であり、町に損害を与えたと主張した。
これに対し被告側(町および補助参加人小高氏、林氏)は、当初「職員らに責任はなく違法性はない」と全面的に争う姿勢を示した。町の代理人は請求の棄却を求め、町として争う意向を明らかにした。被告側は長年続いた慣行について「問題はなかった」と正当化しようとしたが、その主張は徐々に苦しくなっていった。
裁判の過程で明らかになった事実関係として、昭和55年当時に町と職員父との間で形式上交わされた自販機設置契約は存在したものの、父の死亡後も息子である職員が契約更新や許可を得ずに同じ施設で設置を継続し、町も一切使用料を請求してこなかった事実が確認された。また、本来町有施設の管理権限を有するのは町長であり、教育委員会ではないことも指摘され、原告の主張が裏付けられた。
したがって、町長(前町長林氏)は当然この無許可設置を把握し是正しうる立場にありながら怠ったといえる。原告側はこうした点を丹念に主張・立証し、公有財産管理上の重大な瑕疵があったことを明確にしていった。
裁判所による和解勧告と異例の和解成立
約2年に及ぶ審理の末、裁判所は原告・被告双方の主張と証拠を踏まえ和解による解決を勧告した。第7回の口頭弁論準備手続が行われた2024年6月、裁判所から示された和解案は、原告側の請求趣旨をほぼ受け入れる内容であった。被告町側も当初の強硬姿勢を転換し、この裁判所勧告案を受け入れることとなった。その結果、2024年6月に和解が成立し、7月11日付で訴え取下げとなった。
町側が事実上非を認める形での和解成立は、住民訴訟として極めて異例の成果であった。
裁判所が提示した和解条項のポイントは以下の通りである:
- 補助参加人小高氏(元幹部職員)による町への賠償:補助参加人小高氏は町に対し、不当利得返還債務とその遅延損害金として約308万円を支払う義務を負う。これは過去10年分の未払い使用料相当額が賄われる計算である。この金額は和解成立から定められた期限に町へ納付された。
- 補助参加人小高氏の違法性承認と遺憾表明:補助参加人小高氏は、自身および故人である父が許可なく長年にわたり町施設を私的に使用し続けた事実を認め、その結果町に損害を与えたことに対し遺憾の意を表明した。長年「問題なし」と主張していた当事者が、自らの行為の不当性を認め謝意を示す内容となった。
- 補助参加人林氏(前町長)の責任承認と遺憾表明:補助参加人林氏もまた当時町長として適切な財産管理を怠り、使用料を徴収しなかった過失を認め、本件について遺憾の意を表明した。前町長自らが管理責任の不履行を認めて謝罪する条項は極めて異例と言える。
- 町の再発防止策表明:町(被告白子町)も和解条項の中で、法律や条例を遵守し行政財産の適正管理に努め、二度と同様の事態を起こさないよう再発防止に取り組むことを表明した。これは町として公式に姿勢を改める約束であり、今後の町政運営における重要なコミットメントである。
- 訴訟の終結:補助参加人小高氏が和解条項に基づき支払いを完了したことを受けて、原告である当会は本件訴訟を取り下げることで合意し、裁判手続きは終結した。
以上の和解内容により、原告側の求めていた「町への損害回復」と「関係者の責任明確化」がほぼ実現することとなった。裁判所が被告である町の主張を認めず、当会の訴えの正当性を踏まえた解決案を示したことは注目に値する。和解条項には金銭支払いのみならず、関係者の非違行為の認定と謝罪、そして組織としての再発防止策まで盛り込まれており、住民訴訟としては異例づくめの成果と言えるだろう。
勝訴的和解の意義と町財産の回復
住民訴訟において住民側原告が勝訴判決を得たり、今回のように勝訴的内容の和解に至るケースは全国的にもごくまれである。多くの住民訴訟は監査段階から棄却・却下が相次ぎ、裁判でも住民側が敗訴することが少なくない。それだけに、本件が示した意義は大きなものがある。
第一に、長年放置されてきた行政の慣行の誤りを司法の場で正した点である。裁判所から示された和解条項には、町行政の対応が不適切であったこと、そしてそれを正す住民側の指摘が正当であったことが明文化されている。特に前町長まで含めて責任を認めさせたことは、町政における責任の所在を明確にした。これは「住民による行政監視が実際に成果を上げた」例として白子町のみならず他の自治体にも示唆を与えるだろう。
第二に、町の財産が実際に回復されたことも重要である。和解により補助参加人小高氏から町へ支払われた約308万円は、本来町が得るべきであった公金である。長年失われていた財産が町に戻ったことは、金額の多寡以上に意義がある。住民訴訟では「仮に勝っても結局お金は戻らないのでは」と言われることもあるが、今回はきちんと町に実害相当額が納付された。これは町の財政にとってもプラスであり、住民の監視が直接町の利益を守った形になる。
また、この件を通じて町当局も財産管理の重要性を再認識したはずである。和解条項に明記されたとおり、適正な財産管理の徹底と再発防止に努めるという約束が守られれば、今後同様の問題が起きるリスクも減るだろう。それは町政の公正さ・透明性の向上につながり、ひいては町民全体の利益となる。
緑川輝男新町長へのメッセージ
生涯学習課長、総務課長、更には副町長として本件に関与していた緑川新町長にも本件和解の内容を真摯に受け止め、再発防止策を着実に実行していただきたいと期待している。また町民の皆さんにも、本件は行政の不適切な慣行であっても市民の働きかけによって是正できることを示す例として共有したい。
私たち市民オンブズマンの会白子は、これからも町政を監視し健全化に向けた提言を続けていく。本記事が、白子町の行政に関心を持つきっかけとなり、住民と行政が協働してより良い町づくりへと進む一助となれば幸いである。
以上
市民オンブズマンの会白子・会長